■「seamless」セルフ・ライナーノーツ #04
最新作「seamless」に収録された楽曲に込めた想いや制作裏話を、僕自身が解説するセルフ・ライナーノーツの第4回。
※これまでのライナーノーツはコチラ
第1回「マジックアワー」/第2回「Spotlight」/第3回「イメージ」
■#04 風のたより
『見終わって、晴れ晴れとした気持ちになる様な作品にすること。』
巨匠・黒澤明が、遺作「雨あがる」の脚本冒頭に書いた覚え書きだ。
昔、何気なくTSUTAYAで見かけた同作のパッケージに書かれていたこの一言に、衝撃を受けた。
「こんな曲が書きたい」という技術的な自己満足ばかりで、それを聴いた人に何を残したいか、という視点が自分には全く欠けているということを思い知らされたからだ。
作品の細部にまで異様な拘りを見せ、世界の黒澤と言われるまでになった彼でさえ、描いていたのは映画を見た後の観客の顔であったというのに、一介のシンガーソングライターがなんと傲慢なのかと。
当たり前のようなそのことが、衝撃的だった。
それ以来、曲を書く前には決まって「聴き終わって、○○な気持ちになる様な作品にすること」と書くことにしている。
なかなか思うようにはいかないけれど。
「風のたよりで聞いた話さ 君がもうすぐママになるって」
冒頭のこの一行が、この曲の情景をほぼ全て表している。
アルバムを作る際にはあちこちに散らばったモチーフ(=歌詞やメロディーのメモ)をかき集めるところから始めるが、この曲はこの部分だけがあやふやなメロディーに乗せられて、携帯のボイスメモに記録されていた。
このたった4小節を聞いて、完成させるのは今しかないと感じた。
メモを残した当時の自分が、何となく持っていながら形に出来なかったイメージを、今なら納得出来る形で曲に出来ると思った。
詞は、この一行が持つ世界を壊さないように、気を付けながら書いていった。
広げすぎないように、語りすぎないように。
決して利己的ではなく相手の幸せを願う気持ちと、そこまで想いが残るほどの人と、なぜ離れてしまったのかを、説明的にならないように、でもなんとなくの雰囲気だけにならないように。
「長い坂道を 上りきる少し前で 立ち止まり
君は言ったね ここからの景色が好きだって」
坂があれば上ることばかりで、それ以外の選択肢なんて無いと思ってた。

上ってばかりではきりが無いから、もうここら辺で立ち止まって別の素敵なことを探したい、そういう価値観だってあるはずなのに、それが分からなかったんだ。
好きなだけじゃダメなんだなんて、そんなことを歌っている歌を聴く度に「そんなのただの言い訳さ」って思ってきたけど、そんな気持ちも分かるようになったなんて、少しは大人になったということなんだろうか。
タイトルに沿って、ピアノは全編「風の流れ」をイメージしたアルペジオ奏法にした。
(ライブの時に、ずっと弾き続けながら歌うのは大変だろうなと思いつつ、実際やっぱりうまくいかない笑)
いわゆるPOPSの王道セオリーである「Aメロ〜Bメロ〜サビ」というような構成を敢えて無視して、先に書いた詞の流れを大事に曲を付けていく。
そういう曲は構成が単純な分、歌い手の歌唱力が無いと途中で飽きてしまう。
案の定、歌入れも難航。いつになったらテイク3で終わるようになることやら。
単純で簡単に思えることほど、実際にやるのは難しかったりするものだ。
引き合いに出すのも恐れ多いが、きっとあの巨匠だって、うまくいかないことがあるからこそ、ついつい目指すところを見失ってしまうことがあるからこそ、最初にあんな一言を走り書きしたはず、だ。
『聴き終わって、愛した人、愛された人と共にした時間を、さわやかに思い出す様な作品にすること』
そんな曲には、なっているだろうか。
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■#04 風のたより
『見終わって、晴れ晴れとした気持ちになる様な作品にすること。』
巨匠・黒澤明が、遺作「雨あがる」の脚本冒頭に書いた覚え書きだ。
昔、何気なくTSUTAYAで見かけた同作のパッケージに書かれていたこの一言に、衝撃を受けた。
「こんな曲が書きたい」という技術的な自己満足ばかりで、それを聴いた人に何を残したいか、という視点が自分には全く欠けているということを思い知らされたからだ。
作品の細部にまで異様な拘りを見せ、世界の黒澤と言われるまでになった彼でさえ、描いていたのは映画を見た後の観客の顔であったというのに、一介のシンガーソングライターがなんと傲慢なのかと。
当たり前のようなそのことが、衝撃的だった。
それ以来、曲を書く前には決まって「聴き終わって、○○な気持ちになる様な作品にすること」と書くことにしている。
なかなか思うようにはいかないけれど。
「風のたよりで聞いた話さ 君がもうすぐママになるって」
冒頭のこの一行が、この曲の情景をほぼ全て表している。
アルバムを作る際にはあちこちに散らばったモチーフ(=歌詞やメロディーのメモ)をかき集めるところから始めるが、この曲はこの部分だけがあやふやなメロディーに乗せられて、携帯のボイスメモに記録されていた。
このたった4小節を聞いて、完成させるのは今しかないと感じた。
メモを残した当時の自分が、何となく持っていながら形に出来なかったイメージを、今なら納得出来る形で曲に出来ると思った。
詞は、この一行が持つ世界を壊さないように、気を付けながら書いていった。
広げすぎないように、語りすぎないように。
決して利己的ではなく相手の幸せを願う気持ちと、そこまで想いが残るほどの人と、なぜ離れてしまったのかを、説明的にならないように、でもなんとなくの雰囲気だけにならないように。
「長い坂道を 上りきる少し前で 立ち止まり
君は言ったね ここからの景色が好きだって」
坂があれば上ることばかりで、それ以外の選択肢なんて無いと思ってた。

上ってばかりではきりが無いから、もうここら辺で立ち止まって別の素敵なことを探したい、そういう価値観だってあるはずなのに、それが分からなかったんだ。
好きなだけじゃダメなんだなんて、そんなことを歌っている歌を聴く度に「そんなのただの言い訳さ」って思ってきたけど、そんな気持ちも分かるようになったなんて、少しは大人になったということなんだろうか。
タイトルに沿って、ピアノは全編「風の流れ」をイメージしたアルペジオ奏法にした。
(ライブの時に、ずっと弾き続けながら歌うのは大変だろうなと思いつつ、実際やっぱりうまくいかない笑)
いわゆるPOPSの王道セオリーである「Aメロ〜Bメロ〜サビ」というような構成を敢えて無視して、先に書いた詞の流れを大事に曲を付けていく。
そういう曲は構成が単純な分、歌い手の歌唱力が無いと途中で飽きてしまう。
案の定、歌入れも難航。いつになったらテイク3で終わるようになることやら。
単純で簡単に思えることほど、実際にやるのは難しかったりするものだ。
引き合いに出すのも恐れ多いが、きっとあの巨匠だって、うまくいかないことがあるからこそ、ついつい目指すところを見失ってしまうことがあるからこそ、最初にあんな一言を走り書きしたはず、だ。
『聴き終わって、愛した人、愛された人と共にした時間を、さわやかに思い出す様な作品にすること』
そんな曲には、なっているだろうか。
- 2013.07.01 Monday
- 曲のはなし
- 19:32
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- 伊沢ビンコウ